理想の首長論から見た東京都知事選挙。

日本大学の危機管理学部・スポーツ科学部と神奈川大学法学部でまちづくりの講義をしています。私の町長としての実体験を踏まえ理想の首長を論じてます。

政治を考える際の古典中の古典、マックス・ウェーバーの『職業としての政治』を引用して政治家としての資質についてから話し始めています。

1919年、第一次世界大戦で敗れたドイツの政治状況の中でウェーバーが政治家の条件として挙げたのは、燃えるような情熱と冷静な判断力でした。

そして結果責任を取る覚悟とどんな状況になってもくじけない信念でした。どれもこれももっともです。しかしどうしたらこの理想の条件を満たせるのでしょうか。

私は、政治家も人間としての基本を磨くしかないという結論に達しました。政治を理想の人間の振る舞いと見る東洋の王道政治を見つめ直すことにつながります。

学生たちには明治日本の代表的キリスト教思想家、内村鑑三の『代表的日本人』を読むよう求めています。いの一番に登場するのは西郷隆盛です。

西郷が遺した言葉『遺訓』も必読書だと話してます。西郷は私心の無いことが政治の原点だと訴えています。私は、ここに理想の首長論の原点を見い出しました。

その上で自分自身の町長体験から二つの条件を加えています。一つは、たとえ権限があって、それを使う権力を持っていても、振り回さないことです。

首長には専決処分と云って議会の議決がなくても首長の権限で予算を執行できる権限があります。私は実際に行使し町議会から否決された経験があります。

首長は権力者です。良かれと思っても過ちを犯します。その時に待ったをかける制度が保障されていなければなりません。町議会がその役割を果たす機関です。

面白くなくてもチェック機関の議会を尊重していくことは民主主義を守る大切な姿勢だと思います。勇ましいことをやるよりこちらの方が真の勇気だと思います。

もう一つは住民への姿勢です。住民本位の政治が流行りです。しかし、住民はプロではありません。町づくりに積極的に参加できるような促しが必要です。

それには首長が半歩前に出て自らの責任で住民をリードして行く行動が不可欠です。そして順調に行き出したら半歩引き下がりその運動を後押しすることです。

逆をやってはいけません。最初の一歩を踏み出す時は、自分は傍観者のままで住民に委ね、上手く回り出したら自分の手柄にするようではお話しになりません。

以上の述べた私心のないこと、権力に対する謙虚な態度、住民に対するしなやかなリーダーシップこの三点から東京都知事選挙を見てみますとどうなるでしょうか。

有力とされる三人の候補者を見ると元岩手県知事の増田寛也さんについては、どのような考え方に基づいて実際に何を行ったか、チェックして判断することが可能です。

鳥越俊太郎さんと小池百合子さんについては首長の実体験はありませんので限られた選挙運動期間中の言動から私の3条件を当てはめて行くしかありません。

投票日は31日です。私は有権者ではありませんが町づくりの講義を行っている者としてじっくりと3氏の言動を見て行き結論を出すことにしています。