今、日本国憲法を学ぶ意味2

憲法改正に向けての動きが加速している最大の要因は保守の側にストッパー役の人物もしくはグループが見当たらないことが最大の要因だと思います。

中曽根総理大臣がイラン・イラク戦争当時の1987年ペルシャ湾に自衛隊の掃海艇を出動を検討した際に憲法の理念に外れる恐れがあると反対したのは後藤田正晴官房長官でした。

小沢一郎さんは現在は憲法改正には反対の姿勢ですが1990年代初頭は違いました。「普通の国」を目指すとして憲法改正を視野に入れた動きでした。

小沢さんらの主張に対し反対の姿勢を鮮明にして戦ったのは梶山静六さんや野中広務さんといった戦争の悲惨さを実体験として持っている剛腕政治家でした。

防衛政策に精通していた山崎拓さんも憲法9条の専守防衛の考え方は堅持の姿勢でした。こうした一連の保守政治家はこの世を去るか引退してしまいました。

ハト派の皆さんは、余り当てにできません。かつてはハト派の牙城であった故・三木武夫さんの派閥の流れを組む自民党の高村副総裁は改正の先陣を切っています。

護憲の考えが貫かれていたはずの保守本流の流れを組む自民党前幹事長の谷垣禎一さんも待ったをかける気概は感じられません。気骨がない人はダメです。

結果として戦争を知らず勇ましいことを主張することで高揚感を覚えるようなスタイルの政治家ばかりが安倍総理を取り囲むことになれば拙速な議論となりかねません。

しかし、憲法論議に大きな影響を及ぼすかもしれない事態が生じました。天皇陛下のお言葉です。お言葉は「象徴としてのお務めについてのお気持ち」を述べられたものです。

本文の中にも再三に渡り象徴天皇という表現が使われています。現在の憲法で定めれている象徴天皇制を前提にしてありようについてお考えを述べられています。

もちろん天皇陛下のお言葉と国会での憲法論議とは全く関係ありません。国政への権能を一切有しないことを十二分に認識した上でお気持ちを述べられました。

憲法に定められた象徴天皇の役割を着実に遂行するためには生前退位して皇太子に皇位を譲ることもあり得るとのお気持ちを強くにじませたと受け止められました。

憲法改正論議への影響は出ると思います。お言葉を受け止めて生前退位の環境整備を急ごうとすれば現行憲法の枠組みの中で法制度を整えることになります。

憲法改正より優先事項となると思います。国民世論も天皇陛下のお言葉を支持しています。憲法改正に向けての動きを急ごうとした安倍政権としても尊重せざるを得ません。

結果として国会は憲法改正の動きを再検討せざるを得ないのではないでしょうか。憲法改正論議は、時間をかけて慎重にことに当たるという流れが強まるのではないでしょうか。

私はこの流れを期待します。国民が落ち着いて日本国憲法の価値とは何なのか、憲法改正をする意義は一体何なのかを考える余裕が与えられるからです。

参議院選挙で改正を志向する勢力が三分の二を占めたといっても安倍総理は憲法改正を選挙の争点にした訳ではありません。原点に立ち戻って議論を始めて欲しいです。