哲人シンガーソングライター中島みゆき

中島みゆきさんの最新アルバム、聴き飽きません。
目新しさで飛びついた時とは違う感慨がわいてきます。
私的にはベートーベンの交響曲と同じです。

ベートーベンの生涯のテーマは苦悩から歓喜へでした。
中島さんも同じ志向があるように思えてなりません。
私が大学に入学した時、中島さんの「時代」が注目されました。
2番の歌詞。まわるまわるよ時代は回る 別れと出会いを繰り返し
今日は倒れた旅人たちも 生まれ変わって歩きだすよ
苦悩を越えて再起への期待を歌ってます。

数ある中島さんの楽曲の中で名曲中の名曲「誕生」。
地元のソプラノ歌手の橋本京子さんに素晴らしさを教えてもらいました。
畏れながら 憎みながら いつか愛を知ってゆく
泣きながら産まれる子供のように もいちど生きるため 泣いてきたのね
愛を再び知ることが人生であり再起だと言っているのだと思います。

最新アルバムは全部で10曲。その最初の曲は「倶(とも)に」。
つんのめって 出遅れて 日は沈む 雨は横なぐりだ
倶に走り出そう 倶に走り継ごう
過ぎた日々の峡谷を のぞき込むヒマはもうない
倶に走り出そう 倶に走り継ごう
生きる互いの気配が ただひとつだけの灯火
懸命に頑張る人たちへのエールです。

最後の楽曲は「夢の京(みやこ)」。3番に全てが凝縮されてます。
樹々は歌う 水は歌う なのに人は なのに人は
欲の轍(わだち)に轍を重ね 自らを埋めてゆくの
夢の京に帰ろう もう無い国に帰ろう
時は戻らない 夢は戻れる 怖れることはない
怖れることはない

欲望は自らの本来の姿を見失わせます。
欲望の世界から脱けることが本来の姿に戻る道です。
中島さんは欲望のない世界を「夢の京」と表現してます。

夢幻の世界を言っているのではありません。
中島さんは「夢の京」こそが真実の世界だと確信しているはずです。
人は心の奥底にその世界の記憶を持っていると考えていると思います。
だからその世界に戻ることを怖れることはないと言っているのです。

ギリシアの哲人プラトンを連想させる歌詞です。
絶対の理想の世界があると信じたプラトン。
その世界への回帰を現実にするための手段が哲学でした。
哲学することで憧れて止まない絶対の世界に戻ろうとしたのです。

中島さんは絶対の世界すなわち「夢の京」へと人々を誘っています。
プラトンのように哲学ではなく歌詞の力と歌唱力で。
歌声を聞くことは絶対の世界を垣間見ることです。
飽きないわけはここにあります。

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