『暗闘』を読まずして国際政治を語るなかれ
今年5月に刊行された『暗闘』新版。
著者はアメリカ在住の歴史家の長谷川毅さんです。
728ページの大著で6600円ですので分厚く高価です。
速読は無理なことがすぐわかりました。
少し読んでは考え込んでしまうからです。
第2次世界大戦の終末期、日本の敗戦必至の中で繰り広げられたドラマを描いてます。
史料を丹念に分析した歴史書ですがドキュメント小説を読むような緊迫感があります。
圧倒的な事実を前にため息が出ない日本人はいないはずです。
スターリンは1943年段階で満州侵攻を決断してました。
日本は日ソ中立条約を信じ続けました。
侵略を決めている相手に連合軍との仲介を依頼していたのですから哀れです。
スターリンの野望は単純明快です。
日露戦争で奪われた領土を取り返すことと更なる領土獲得です。
更なる領土とは北方4島を含むクリル諸島のことです。
ここを支配下に収めるためスターリンは日本が終戦を受け入れた後軍事侵攻しました。
作戦終了は9月5日でした。
スターリンにアメリカもまんまとしてやられました。
北方領土問題が残りました。
スターリンは北海道の北半分を一時期要求しました。
スターリンは軍事面での地政学的観点から領土をせしめようとしました。
独裁者の強欲さと冷徹な判断に驚きます。
長谷川さんの昭和天皇に対する視線は厳しいです。
最終段階では終戦に転じましたが和平に踏み切ることをためらい続けてました。
一撃を加えて有利な条件で終戦という幻影に囚われていました。
自分の身はどうなっても良いという姿勢は戦後に作られた神話だと断言してます。
原爆は狂信的な日本に戦争を止めさせる手段だったというのも神話だとしてます。
アメリカが原爆投下の倫理性を突かれるのを避けたのです。
アメリカが天皇制について宥和的姿勢をとっていれば終戦が早まった可能性があります。
原爆だけでは日本軍部は戦いを止めなかったと見ています。
決定打は頼りとしていたソ連の参戦です。
これが長谷川さんの歴史観です。
目からうろことの事実を突きつけられ戸惑います。
しかし真正面から受け止めてこそ近未来に備えられます。
特に謀略国家ロシアの北海道への野望を過去の話しだと捨てることは危険です。