小津安二郎「東京物語」に圧倒される

食わず嫌いという言葉があります。
日本映画の巨匠の小津安二郎監督の作品がそうでした。
珠玉の名作だとの知識はあってもいちども観たことがありません。
まったりとしたテンポで退屈そうと思い込んでいたからです。

今年は小津監督の生誕120年で没後60年です。
様々なイベントが開催されメディアでも特集が組まれました。
NHKのETV特集の「小津安二郎は生きている」を視ました。

小津作品には戦争の影があることを知りました。
小津監督自身日中戦争で行軍に加わっています。
将来を期待していた後輩の映画人を亡くす悲劇を味わってます。

NHKBSで小津監督の代表作「東京物語」を視ました。
2時間16分の長編です。
見終えるには覚悟が必要だと決意し見始めました。
魔法にかかったかのように引き込まれてしまいました。
切れ味鋭い展開でないところが逆に引きつけられるのです。

テーマは家族です。
広島県尾道に住む笠智衆と東山千栄子が演じる老夫婦が子供が住む東京に出かけます。
子供たちには冷たくされる一方で戦死した息子の嫁に心のこもった歓待を受けます。
伝説の女優原節子が演じています。

尾道に戻った直後に母が急死します。
葬儀後に最後までかいがいしく面倒をみたのはやはり次男の嫁でした。
父がしみじみと感謝の言葉を語ります。
形見として腕時計を手渡します。
涙する原節子の姿を観て私も胸が熱くなりました。

ほのぼの映画ではありませんでした。
家族の愛情と冷たさを鋭くえぐっているのです。
テンポのまったりさは逆にその機微を際立たせてました。

山田太一さんの「岸辺のアルバム」が思い出されました。
こちらは「東京物語」ができてから19年後の1977年の作品です。
洪水に襲われて流出する念願のマイホームと家族の崩壊を重ねたテレビドラマです。
家族を取り巻く環境がより深刻になったことの裏返しだと思います。
現代に小津監督が生きていたらどんな作品になるのかひどく興味が湧きました。