今、大注目の『君たちはどう生きるか』の読み方。
81年前に出版された少年向けの文学作品『君たちはどう生きるか』が話題になっています。漫画本にもなり100万部を超える売れ行きです。
1937年7月日本と中国は中国大陸で遂に戦争を始めました。その後、日本は1941年12月にはアメリカとの戦争に踏み切り国土は焦土となりました。
『君たちはどう生きるか』が出版されたのは日中開戦と同時期です。作者は、戦後岩波書店の雑誌『世界』の編集長を務めた吉野源三郎さんです。
『君たちはどう生きるか』は、戦争が他人事ではなかった時代の少年たちに、自分中心ではなく広い視野で世の中を見ることの大切さを訴えてます。
英雄の生涯をただ単にたどるだけでなく自分の様々な体験を通じて深く理解すること、失敗してももう一度やり直すことができることの価値を教えてます。
少年向きの本ですので難しくありません。漫画版も出ているのですからぜひ手に取って読んでみてください。格好のガイドブックもあります。
著名なジャーナリストの池上彰さんがNHKの「100分で名著」の中で『君たちはどう生きるか』を取り上げて易しく解説しています。
放送テキストがあります。手に取りながら読めばばっちりです。池上さんは東京の名門私立中学校で特別講義をし、その内容がテキストになってます。
『君たちはどう生きるか』が出版された時代、この本を手に取って読める青少年はわずかです。著者が対象とした旧制中学には経済的余裕が行けません。
池上さんの解説によりますと小学校卒業生が1143万人に対し旧制中学校は34万人です。大学はわずか7万2千人でした。
貧しくていくら優秀でも上の学校に進めなかったのです。そうした大半の子供たちは『君たちはどう生きるか』を読むなんて考えられなかったでしょう。
家業の手伝いをしたり早くに仕事に就いたり本を読むなどという知的な作業は除外されたはずです。この世代の少年たちは数年後、戦地へと赴きました。
戦争で死ぬために生まれてきたような世代と言ってよいです。この世代の集団の最後に『君たちはどう生きるか』を読める仲間も加わりました。
戦争の状況が悪化しインテリたちも学徒動員となったからです。インテリたちもここで真の意味で戦争で死ぬための世代となったわけです。
その時代の大人たちは軍国主義の流れを止めることはできず、あまたの若者たちが戦場に散りました。この責任はとてつもなく重いです。
『君たちはどう生きる』の吉野源三郎さんは自由な思想の大切さを伝えたいと必死だったのは痛いほどわかります。でも戦争を防ぐ手段としては非力です。
81年前は限られたエリートしか持てなかった読書する時間を豊かな時代となって特別の事情でもない限り持つことができるようになりました。
『君たちはどう生きるか』を読むということはかつては戦争で死ぬためにこの世に生まれてきたかのような世代の青少年が存在したことを知ることです。
そして同時に本を手にすることができるのは一部の豊かな家庭で大半の青少年はそんな余裕もないままに戦地へと赴いたことを知ることです。