安倍政権の「脱戦後」を考える

22日、東京大学で公開講座がありました。テーマは、「『脱戦後』する日本」でした。

赤門を入ってすぐ左にある「福武ラーニングシアター」が会場でした。160人定員で満席でした。

講師は、朴喆煕(パクチョルヒ)ソウル大学国際大学院教授です。専攻は日本の政治外交についてです。

入り口で同時通訳用のレシーバーを受け取りました。当然英語で講演されると思っていました。

ほとんどの方が取られないので、さすが東大、全員が英語を全く苦にしないのだと感心してました。

ところがそのなぞはすぐ解けました。朴教授は日本が堪能で流ちょうな日本語で講演されました。

朴教授の話の主たる内容は、安倍政権の下で進行している「脱戦後」という政治社会現象でした。

安倍政権は、2012年12月の衆議院選挙で勝利して翌年1月政権の座に復帰してから安倍一強体制を誇ってます。

朴教授によりますとふたつの潮流が左右両面から支えているのが安倍政権の強みだというのです。

左側には公明党、右側には日本会議です。もちろん中核には本来の保守がでんと控えています。

立憲民主党や共産党など左側の野党からの追及に対しては、公明党が福祉重視を訴えて防波堤になります。

右側からの追及に対しては右派を代表する組織である日本会議が安倍政権を守る構造になります。

野党にとって安倍政権は攻めにくい構造を持っていると言えます。安倍政権の強みはそれだけではありません。

柔軟性があることに留意する必要があると朴教授は指摘してました。批判を受けると巧みに軌道修正します。

確かに今度の参議院選挙で会見に前向きの勢力が国会発議に必要な3分の2を割り込むとすぐに動きました。

改憲に向けて議論する環境を整えようと国民民主党にまでウィングを広げて議論を仕掛けようとしてます。

上手く行くかどうかは別にして障害があると直ちに軌道修正して状況を改善しようとする特性が表れてます。

安倍政権の「脱戦後」は、反リベラル、権力集中、外交安保大国指向の3点にあると朴教授は分析してました。

的確な見方だと思います。しかし、同時に乗り越えなければならない課題があります。

朴教授は、権力に対するけん制、近代の負の遺産の清算、大国主義の持続性、格差社会からの脱却の4点を挙げました。

こちらも的確な指摘です。と同時に安倍政権はこれらの課題を乗り越えることができるのか疑問だと思いました。

権力者が自らの権力を抑制することは困難ですし、中国や韓国との間に横たわる歴史認識の克服は容易ではありません。

大国主義の持つ危険性は言うに及ばず新自由主義的発想で格差社会の脱却は困難と言わざるを得ません。

要するに安倍政権が指向している政治は、指摘された現代日本の課題に対応できるものではないのです。

それなのに1強体制は続いているところに不思議さがあると見なければなりません。

この特異な状況をもたらしているのは何かをえぐり出し新たな進路を見い出すことが急務だと言えます。