新型コロナウィルス対応の政治学55~日本学術会議人事~

菅総理が政治の師匠として尊敬しているのは梶山静六元自民党幹事長、元内閣官房長官です。

私も政治記者時代から薫陶を受けましたので梶山さんの政治手法は存じあげているつもりです。

梶山さんの手腕は政治の舞台を熟練技でしつらえるところにありました。

「俺は職人だ」と常々言っていました。この職人気質に軍人時代に培った作戦立案の才が加わります。

相手の出方を読みつつ綿密な工程表を立て政治ドラマの台本を作り自らも演じて行きます。

その際たる一例が橋本内閣の官房長官時代にありました。何度かブログでも書いてます。

橋本総理の訪中前に梶山官房長官は突如として中国の虎の尾を踏む様な発言をしました。

日米安保条約の対象地域として台湾海峡も理論的には含まれるとテレビで発言したのです。

台湾は中国の領土だというのが中国の大前提であり日本に口を挟まれることに猛反発しました。

梶山官房長官は持論を開陳しつつ収めどころも心得ていました。総理の意見には従う姿勢でした。

橋本総理が事態を収拾し梶山官房長官は問題提起し橋本総理の指導力で丸く収めたのです。

中国側から見れば橋本総理の手腕に一目置くことになります。見事な梶山流の匠の技でした。

ところが菅総理は政治の師匠梶山さんの教えを忘れてしまったようです。

日本学術会議の新会員の人事をめぐり6人の委員をける人事を発表しました。

いずれの委員も安保法制などで政府方針に厳しく反発した委員ばかりです。

政府の意向に沿わない研究者はが学術会議の委員にはなれないとの脅しに見えてしまいます。

師匠の梶山さんの教えを受け継ぐのであれば菅総理ではなく別の人物に問題提起させるべきです。

政府の意向に反対する研究者を学術会議の会員にするのは反対だと論議を興せば良いのです。

論議の成り行きを見ながら最終的に学問の自由に関わる事柄だとして人事を認めるのがまっとうです。

菅総理としては問題提起できたことになりますし収めることで幅広い勢力からの支持も得られます。

一挙両得で政権基盤はより強固になってたたき上げの仕事師内閣としての地歩を固められます。

しかし菅総理はいわば一刀両断の手を打ちました。従わないものは切るというやり方です。

日本学術会議をめぐる問題を超えて社会全般に波紋は広がることは確実です。

総理の指示に従う立場の官僚にはより一層の恐怖感を植え付けることでしょう。

研究者にとっては政府に意に沿わないと地位を得られないという疑心が生まれてしまいます。

権力を監視するメディアも批判すると反撃食らうのではとして筆先が鈍る可能性があります。

このような風潮が広がってしまっては社会から自由な批判が失われ健全な社会にはなりません。

今回の菅人事は日本社会の今後の在り方に関わる重大な問題をはらんでいます。

私は菅総理が勇気を奮って方針を撤回することを願っていますが見通しはわかりません。

菅総理がこのまま人事を押し切ると日本社会のあり方をめぐる決定的な対立点となるのは確実です。