ハイデガー哲学から五か条のご誓文へ

難しい書物をやさしく解説してくれる便利な番組があります。NHKEテレの「100分で名著」です。

今月は20世紀最大の哲学者と言われるハイデガーの『存在と時間』を扱ってます。難解で有名な本です。

人間は孤立への不安から周りに同調します。人間を支配するのは世人です。世人とは世間、空気という得体のしれないものです。

日本の政治風土の問題点を指摘しているのかと驚きました。ドイツにも空気の支配がありました。

ハイデガーは人間は死を意識した時に本来の姿に戻れると主張しました。生と死は紙一重という感覚を持つことだというのです。

そうした感覚の時人間は本来の自分からの良心の声を聴き責任を持った生き方ができると主張しました。

鋭い洞察に感服しそうですがハイデガー哲学には消し難い汚点があります。ナチスドイツに傾倒したのです。

世人の支配から脱却し良心の声を聴くはずのハイデガー哲学が全体主義の暴力に加担してしまったのは皮肉です。

ハイデガーの弟子たちは師の孤高の姿勢や決意を重視する考え方の中にハイデガー思想の危険性を読み取りました。

しかし孤高や決意は同調圧力に屈しないための基本姿勢ですので否定してしまっては意味がありません。

難問を解く手がかりは一般の国民と指導者を同列に論ぜずに分けて考え政治哲学を確立することだと思います。

国民一般の基本は同調圧力に負けずに良心の声を聴き意見を発することです。そうした機会を保障することが大切です。

戦後日本は民主主義を取り入れ個々人が主張することへのハードルは下がりましたが十分に民主主義を使いこなせてません。

指導者の側も戦前からの権威主義的傾向を引きずり悪しき全体主義への未練を断ち切っていない側面もあります。

一般の国民は民主主義を自分のものにできず指導者たちは戦前の国家主義からの反省が不足している状態です。

この状態は日本が健全な国家として発展する道を阻害し再び戦前の全体主義に堕落する危険性をはらんでいると見て取れます。

戦後も戦前も反省すべき点があるとなると原点に戻るのが一番です。日本が近代へと歩み出した明治維新です。

明治政府が維新直後に発した五か条のご誓文に現在目指すべき政治哲学の可能性が見い出せると思えてなりません。

第一条の「広く会議を興し万機公論に決すべし」に民主主義の原理原則が単刀直入に述べられています。

つづいて一般国民も指導者もともに協力し合い理想の国づくりに進むことを求めています。再評価すべきです。

民主主義の普遍的価値を堅持するとともに日本という国家を健全な形で発展させる政治指針と考えられるからです。