”アメーバ”と”狂気”のまちづくり

先月亡くなられた京セラの創業者の稲盛和夫さんの経営手法は「アメーバ経営」と言われます。

アメーバと聞くとどことなく得体のしれない侵入者のように思えてしまいます。

稲盛さんは柔軟で変幻自在さをプラスに捉えて組織の創新を常に促す存在と捉えました。

上位下達の組織ではなく自主的に判断する小集団をアメーバになぞらえました。

ひとりひとりが経営者の意識を持つ組織こそが最強の組織であるとの哲学が貫かれてます。

稲盛さんの考え方はまちづくりに大いに関係します。役所の風土改革と直結するからです。

1998年2月に私が町長に就任した時の開成町役場は挑戦の気概は乏しかったです。

慣例に従って業務を遂行することが役場の仕事という空気がまん延していました。

42歳であった私は若気の至りもあって跳ねることで刺激を与えようとしました。

職員から浮くのは覚悟の上でこれまでとは違った首長のスタイルを提示しました。

ひとことで言えばトップセールス、町長自ら飛び回って営業するということでした。

稲盛さんは創業間なしの京セラを発展に導くために自ら海外も含め営業活動に注力しました。

稲盛さんのすごいのは企業が発展した後も小集団にこだわったことです。

社員全員が経営者マインドを持つには小集団に勝るものはないと考えたのだと思います。

民間企業と行政組織は同一には語れませんが私は稲盛さんのように貫徹できませんでした。

小さな町役場に部制を引いてリーダーを選抜し競わせて育てようとしました。

私の分身である副町長に差配は任せました。自由な意見が出るようにとの配慮でした。

行政は民間企業で言うところの利潤のような明確な指標がないのが悩ましいです。

何をもって競わせるのか一目でわかり職員も納得できる基準はありません。

最終的には首長の直観といった非合理な基準で評価が決まってしまいます。

各部の部長が町長と同じ視点を共有してアイデアを出す体制づくりは道半ばで退任でした。

開成町は部制を現在は止めて元の課制に戻してます。止む得ないと思いました。

部制を機能させるためには首長の高い志と見識があることが大前提です。

稲盛さんのような経営哲学を持って常に職員に町長たれと言い続けることが必要です。

稲盛さんはもうひとつ重要な発信をします。「狂え」ということです。

理屈だけでは事態は打開できないということだと理解してます。

現場からの発想で一大企業を興した稲盛さんならではの姿勢だと思います。

江戸時代末期に600もの村を再興した二宮尊徳に通じるところがあります。

「アメーバ経営」と「狂気」、稲盛さんの教えは小さな町のまちづくりの指針となります。