続・黄昏時の日中関係を考える

29日開催された日中茶話会で周恩来首相の日本留学時のエピソードが披露されました。

「2000年不変の対話」分科会で進行役を務めた法政大学名誉教授の王敏さんが紹介しました。

王敏さんは『周恩来と日本 日本留学の平和遺産』という著書を出版してます。

周恩来首相は1917年から2年間日本に留学しました。訪問先の京都で発見をします。

江戸時代日本の豪商角倉了以の生涯から中国の治水の精神が息づいていることに気づきました。

角倉了以は丹波と京都を結ぶ保津川の開削を始め日本の水運の開拓者とされます。

日本の禹(う)と称されたと言われます。禹とは中国初代の伝説の皇帝で治水の神とされます。

周恩来首相の母型の祖父が水利関係者で治水関係に詳しかったとのことです。

日本各地で禹の遺跡が残っています。私の地元の酒匂川の難所に建つ福沢神社もそうです。

王敏さんは、禹を通じて周恩来と日本とをつなぐ一筋の太い糸を見い出しました。

日本と中国が禹の精神という共通の基盤を持っていることを言いたいのだと思います。

禹の精神とは全てを治水のためにささげて国家のために尽くす姿勢です。

日本と中国のことを一衣帯水の関係と表現することがあります。極めて近しいとの意味です。

王敏さんは5世紀に日本に儒教と漢字をもたらしたとする王仁博士にも触れていました。

王敏さんは日本と中国の近さを生み出す精神的土壌に中国の影響があると見立ています。

中国は古代における先進国ですので周辺国の日本が影響を受けたのは当然です。

しかし中心は中国で日本は影響を一方的に受ける存在であるとの歴史観は危険です。

日本は明治以降の西欧化の時もそうですが先進国から文化を巧みに吸収し日本風に変えます。

この能力は決して軽視できません。多様な文化を取り入れて独自の文化を育む原動力です。

中国の経済力は日本の3倍となりました。中国は中華民族の偉大なる復興を目指しています。

習近平政権の大方針ががん然と存在する中で中国文化を礼賛するのは注意が必要です。

中国は中心で周辺は属国とのかつての中華意識の押し付けになりかねないからです。

王敏さんにそうした意図は皆無であると承知してますが中華意識を助長する恐れが潜みます。

日中関係が黄昏時を迎えている今日、日中文化交流の進展は困難に直面してます。

中華民族の偉大なる復興という政治路線が続く限り文化は偉大さを象徴するソフトパワーです。

一方的に礼賛は従属そのものです。部分的にせよ受け入れることも手放しとは行きません。

及び腰の交流とならざるを得ません。当分の間、冬の時代は続くと見ています。