日本の保守とは何か再考

日本政治を考える際に悩ましいのは保守とは何かが明確でないことです。
そのため対抗する側の理念もあやふやになります。
日本を代表する政治学者の宇野重規さんも嘆いています。
『日本の保守とリベラル』(中公選書)はその悩みを扱った著書です。

保守の考え方の原点を示すのはイギリスの政治家エドモンド・バーグです。
フランス革命の急進性に危うさに警告を発しました。
改革は歴史的に積み上げられた遺産を守りながら徐々に進める立場が明確になりました。
ここで問題となるのは何を守るかです。
イギリスは名誉革命で確立した政治的自由を守るというれっきとした大義がありました。
日本はあいまいです。

その結果ズルズルと現状維持することが保守であるかのような誤解も生じました。
あるいは伝統を復古させるのが保守だという誤解もあります。
これは反動あるいは復古であり保守の考え方とは相いれません。

岸田総理が長を務める自民党の派閥宏池会は保守本流と称されます。
元総理の池田勇人さんが立ち上げました。
戦後の経済復興を背景に国民の生活水準の向上を目指しました。
吉田茂元総理の軽武装・経済重視路線を発展させました。
日本国憲法は尊重する立場です。
この路線が保守本流路線と仮に位置付けると現状はかなり様相が異なってます。
保守とは何かを真剣に考えなくてはならない理由がここにあります。

保守の立場から防衛費の大幅な増強をどう位置付けるのかを明示すべきです。
これまでの保守本流の立場からは逸脱しているとの見方は当然あります。
現状に追認して成り行きで防衛費を増強するのは場当たり過ぎます。
保守の理念に沿った正当な理由を提示するのが保守本流の役目であるはずです。

憲法特に9条をどう考えるかが焦点となります。
岸田総理が改正するのだというのであれば伝統的な保守本流の考え方を越えます。
しっかりと説明しないと保守本流の理念を創り上げて来た諸先輩に顔向けできません。
自衛隊の明記と専守防衛路線の整合性を説明しないことには進めないはずです。
この辺りが極めてあいまいなまま事が進んでいるように思えてなりません。

もうひとつの課題はジェンダー平等や多様性への向き合い方です。
保守はどういう考え方に立つのかを明示することが迫られてます。
小泉進次郎さんが選択的夫婦別姓を認める方向に舵を切るべきだと提起しました。
合意がとれるかどうかは保守が新たな方向へ踏み出すかの重大な試金石だと思います。