祝『日本禹王事典』刊行

新聞一面のいちばん下の書籍広告が楽しみです。
弱小出版社の広告が載るからです。
個性的な書籍はこの手の出版社が刊行していることが多いです。


日経新聞の一面に古今書院の広告がありました。
2冊紹介されていて1冊が『日本禹王事典』でした。
「治水神として日本でも崇められている禹王(うおう)。全国165か所の禹王遺跡を地図と写真で紹介。」となっていました。
著者は植村善博、関口康弘、大村潤三です。


植村さんは佛教大学名誉教授で禹王研究の先達のおひとりです。
関口さんは足柄の歴史再発見クラブの会長。
大村さんは東大地震研で歴史学の立場から研究を進めています。
3人とも存じあげています。

禹王は中国最初の王朝夏(か)を開いた伝説の初代皇帝です。
黄河の治水に功績があったとされ中国では多くの遺跡があります。
日本でも全国各地で祀られてます。
南足柄市の酒匂川の土手に立つ福澤神社の守り神は禹王です。
富士山の噴火後の治水工事の後江戸幕府8代将軍の徳川吉宗が祀りました。

禹王に関する書籍はこれまで2冊あります。
『治水神禹王を訪ねる旅』と『禹王と治水に地域史』です。
禹王の紹介地域はそれぞれ15か所でした。
最新刊では一挙に165に増えました。

2010年11月開成町で禹王サミットを開催しました。
禹王を調べている全国の郷土史研究者が一堂に会しました。
足柄の歴史再発見クラブの当時の会長の大脇良夫さんらが中心になって進めました。

2015年5月には東アジア文化交渉学会という国際学会を開成町で開催できました。
特別テーマに禹王研究が取り上げられ郷土史研究者たちが国際学会で発表しました。
研究者たちの地道な努力はその後も続き今回集大成となる事典の出版に至りました。

習近平政権となり中華民族の偉大なる復興が高らかに宣言されてます。
禹王はその象徴のひとつとして祀り上げられてます。
中国の国家的文化政策の一翼を担っています。

事典によれば日本の禹王遺跡のおよそ半分は江戸時代に建てられました。
江戸時代は中国の儒教の影響が強かったです。
禹王は儒教における理想の皇帝で江戸期に禹王遺跡が多い背景だと思います。

日本の禹王遺跡は治水に功績があった人物を日本の禹王として讃えるものが多いです。
中国の禹王の見方とは明確な差異があります。
中国側の見方に埋没すると日本の禹王遺跡は中国の偉大さを補う材料にされかねません。
禹王研究者はこの点に留意し研究を深めて欲しいです。