生命の光をみる仕事師の死

カンヌ映画祭で役所広司さんが最優秀男優賞に輝きました。日本人2人目の快挙です。
でも映画界で最高の晴れ舞台と言えばアカデミー賞です。
2008年に外国映画作品賞を受賞したのが「おくりびと」です。
“納棺夫”という聞きなれない言葉を有名にしました。

死者を棺桶に入れる作業を取り仕切る人物のことです。
映画では本木雅弘さんが演じてました。
笑える場面も散りばめられている作品です。
作家の井上ひさしさんが深い話は面白くと語ってますがその言葉通りに仕上がってます。

人生の終末を描くとなると話は暗くなり重苦しくなりがちです。
ユーモアはその重しを外し視聴者の心を開かせます。
素晴らしい演出だと思いました。

この映画のもととなったのは青木新門さんの『納棺夫日記』です。
昨年8月に亡くなられています。
11日NHKEテレの「こころの時代」で追悼番組を放送してました。
くつろいで見ていたのですが思わず居住まいを正す内容でした。

納棺の仕事は忌み嫌われます。
周囲から白い眼で見られ家族からも汚らわしいと罵声を浴びたこともあります。
異様な死体と向き合うこともあります。
一人暮らしの老人が夏に放置されたまま発見されました。
腐乱は進み布団をよけると無数の蛆虫が這い出しました。

青木さんは必死で逃げようとする蛆虫にも命があると思い直しました。
見方を変えたとたん蛆虫が光って見えたということです。
納棺夫という仕事は生と死のはざまが仕事場です。
人の生きざま死にざまは死体に表れます。
目を背けることは許されない仕事だけに生と死を深く考えざるを得ません。

人生を直視し深い理解へと導きます。
文筆力のあった青木さんはつかんだと思った真理を文字にしました。
青木さんの結論は「ひかり」だと受け止めました。
生命の「ひかり」が見えるようになった時、人は悟りの境地に達するといい換えられます。

生きるのに必死の時は「ひかり」は見えません。
死をあるがままに受け入れた時にその瞬間は訪れます。
森羅万象ありとあらゆるものが「ひかり」輝いて見えるというのです。

漠然とですが理解できる気がします。
我欲があると本当の姿は見えず欲望が消滅すると本来の姿が顔を出すのだと思います。
青木さんは死の瞬間にどんな「ひかり」を見たのでしょうか。
もはや文章で知ることはできません。
まばゆい「ひかり」に包まれたと想像します。
死から目をそらさない仕事を積み重ねた達人の眼に曇りはないと思うからです。