大災害時に頼りになるのは、有能な官僚と地域リーダーの奉仕の精神

NHKBSPの「英雄たちの選択」で浅間山の大噴火を取り上げていました。
1783年旧暦7月に群馬県と長野県境に位置する浅間山は大爆発を起こしました。
群馬県内の死者は1400人を超えたと言われます。

鎌原(かんばら)村は村ごと土石流に飲まれました。
発掘調査で高齢女性を背負った若い女性の人骨が発見され衝撃を与えました。
観音堂の石段を登ろうとした時に土砂の直撃を受けたのです。

番組ふたつの視点から大災害を追いかけていました。
ひとつは極めて有能な官僚の存在でした。
幕府の現地対応の責任者は勘定吟味役の根岸九郎左衛門。
たたき上げの敏腕官僚。清廉で全身全霊で被災地復興に傾注するタイプでした。
被災民を復旧工事に積極的に雇用し賃金も確実に支払いました。
子供に対してもでした。被災民の生活を重視した復興手法でした。
歴史家の磯田道史さんは平時に有能な人財を見い出しておくのが重要と解説していました。

もうひとつはふたりの名主の献身的な災害救援活動です。
屋敷を開放したり大量のコメを供出し炊き出しを行ったり獅子奮迅でした。
ふたりの名は今日まで残っています。
うちひとりは現在も子孫が現地に住んでおり高原野菜農家を営んでいます。
祖先の行動を誇りに思うと番組で述べていました。

磯田さんはこうした一群の人々を名望家層と呼んでました。
災害などの際に地域を守るため身を挺して行動します。

戦後の農地解放で名望家層が解体され地域力が弱体化した側面があると指摘してました。
農地解放は不在地主による小作農の搾取を断ち零細農民の生活を安定させました。
一方で地域に住む地主階層、名望家層が没落しました。
地域に責任感を持つ階層の消滅は地域の結束力を弱め緊急時の対応に課題を残しました。

自分の利害ばかりを主張し犠牲を払うことは徹底して避ける。
こうした風潮が強まってしまうといざという時に地域は混乱します。
遠因のひとつに農地解放があると思います。
名望家層の消滅で地域に尽くす伝統が廃れたと思うからです。

戦後は民主主義となりました。
戦前の軍国主義の抑圧に対する反省の空気も強かったです。
権利を主張することを当然視する社会となりました。

権利の主張は当然です。
しかし行き過ぎると権利がぶつかり合い話がまとまりません。
誰かが奉仕の精神で行動することが必要です。それで地域社会は団結します。
磯田さんは名望家層の果たした役割を誰が担うのか課題だと問題提起してました。