故郷(ふるさと)考

故郷から離れることができうきうき気分の時期がありました。
大学入学とともに東京で下宿を始めた時です。
卒業後NHKに就職し14年5か月。
計18年5か月故郷は遠きにおいて思うものでした。

ところが政治家への道を志し湧き出てきたのは故郷へのこだわりでした。
なぜ故郷への思いが高まったのか明確に説明できないままです。
おのずからとしか言いようがないのです。
故郷は私のDNAに深く刻まれているのです。

あるはずの故郷が消えてしまったら平常心ではいられません。
心の内はどうなるかひどく気になります。
根無し草的な不安感にさいなまされるように思います。

1945年8月戦争に敗れ大量の故郷喪失が発生しました。
朝鮮、台湾の植民地や南洋の日本軍支配下の国々、旧満州。
大日本帝国は領土を一挙に失いました。
日本人居住者は流浪の民となり日本へ引き揚げました。

苛酷な過去を背負っていても故郷は故郷です。
16日NHKETV特集で詩人・作家の森崎和江さんの生涯を追っていました。
森崎さんは1927年日本植民地化の朝鮮で生まれ昨年95歳で亡くなりました。
森崎さんの故郷は韓国の大邱(テグ)でした。

日本に引き揚げて来ても心情は変わりません。
朝鮮語で母を意味する「オモニ」の温もりが忘れられないと森崎さんは語っています。
朝鮮人の家政婦が親身になって育ててくれたのです。
森崎さんは日本にもどっても異邦人でした。

森崎さんのこの心情が歴史の闇に置き去りにされた人々に光を当てました。
炭鉱で働く女たちの実態を描いた『まっくら』。
外国に売春婦として売られていった少女たちを描いた『からゆきさん』。

ふと小田原を中心に活動している日中友好協会のことが思い出されました。
事務局長として切り盛りされている方は旧満州からの引き揚げ者です。
故郷の満州とのつながりは断ち切れないのだと思いました。
ほかでも同様のケースを承知しています
故郷の持つ磁力の強さを感じてなりません。

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