文章の味について

日経新聞の「私の履歴書」。
元大蔵省(現財務省)事務次官の武藤敏郎さんの回が終了しました。

武藤さんは超名門校、開成学園の理事長を務めました。
学園の名前の由来は中国の古典『易経』の「開物成務(かいぶつせいむ)」で開成町と一緒です。

「知識を開いて務めを成す」の精神について言及があるかと期待してました。
残念ながらありませんでした。

武藤さんの文章は模範答案を読んでいると言えばわかっていただけるでしょうか。
今風に言えば高性能生成AIが書いているようです。

少し前に女優の倍賞千恵子さんが執筆していました。
武藤さんに比べれば文章の完成度は低いです。

でも文字が活き活きと踊ってました。
渥美清さんや高倉健さんらとの交友の場面の描写がとりわけ印象に残ってます。

読んでいるのに映画を見ているかのようでした。
場面が浮かんできます。

梶山静六元自民党幹事長、亀井静香元自民党政調会長が登場した回がありました。
自民党と大蔵省がぶつかった場面です。

1992年12月のことです。
自民党は国会議員全員に政策秘書を新たに国費で配置することを決めました。

巨額な予算が必要で大蔵省は反対です。
主計局幹部だった武藤さんを梶山さんは割れんばかりの大音声で怒鳴りつけました。

2000年の介護保険のスタート目前の予算編成の時でした。
子が親の面倒を見る日本の美風を守るべきだと亀井静香政調会長がぶちあげました。

家庭で親の面倒を見ている世帯に補助金をと主張し大蔵省と激突しました。
亀井さんは武藤さんを自民党本部立ち入り禁止にしました。

激突の場面の描写がいまひとつでした。
臨場感に欠けふたりの政治家のほとばしる情念が伝わりません。

開成学園から東大法学部、大蔵事務次官、日銀副総裁、東京オリパラ事務局長。
武藤さんはエリートコースを歩みました。

しかし文章は出しの効きが弱く味気なさを感じます。
出世街道は文章の味つけの鍛錬の場としては十分ではなかったようです。