モノ言う障がい者の言葉を聴く
打ちのめされました。
6日のNHKEテレ、「こころの時代」の市川沙央(さおう)さんへのロングインタビューです。
市川さんは『ハンチバック』で2023年の芥川賞を受賞しました。
「ハンチバック」とは英語で背骨が曲がった人という意味です。
「15、16、17と私の人生暗かった。」と答えていました。
中学2年で学校に通えなくなりました。
生まれつき筋力が弱い市川さんは本の頁をめくるのが苦手です。
安易に紙の本がいちばんだなんて言えなくなりました。
健常者のあたりまえは健常者の世界だけで通用することを思い知らされました。
市川さんから見れば印刷した本が読める人は特権者なのです。
市川さんがインタビューに応じたのには理由があります。
障がい者を排除する風潮が強まっていることへの危機感からでした。
モノ言う障がい者として役目を果たそうと思ったのです。
放たれる言葉は強烈です。
身体を支える装具を身に着けています。
世の中を息苦しいという人に「本当の息苦しさを知らないくせに」と怒りを抱きます。
『ハンチバック』の主人公は「妊娠して中絶したい。」と願望を語ります。
市川さんは文学ならグロテスクなことも書けるといいます。
障がい者を特別視しないで欲しいとの衝動が過激な表現につながっていると感じました。
インタビュー役の番組のディレクターもたじろいでました。
『ハンチバック』を手に取れば生半可でないことはすぐにわかります。
つばを飲み込むような表現で読者の想像力を試してきます。
インタビュー収録後にディレクターがメールで質問しました。
生きる意味を聞きました。
うんざりとの返信がありました。
「障がい者はなぜ常に『生きる意味』を問われなくてはならないのでしょう。」
市川さんの創作の原動力は怒りです。
愛の作家に変身すると芥川賞の授賞式で語りました。
怒りのむなしさを知ったからです。
ベートヴェンのように深い苦悩のあとに見つけた歓喜を書いて欲しいです。