「あっ、そう」

先月30日放送のNHKファミリーヒストリーを見ました。
名優三國連太郎さんを父に持つ俳優の佐藤浩市さんの回でした。

三國連太郎さんの波乱万丈ぶりは追いかけるのがむずかしいほどでした。
東京・神楽坂の売れっ子芸者との間に生まれたのが佐藤浩市さんでした。

佐藤さんが成長し父と同じ俳優の道を歩むことを決め伝える時が来ました。
地下鉄ホームで電車が来る直前でした。

佐藤さんが決断を伝えると三國さんはただひとこと「あっ、そう」でした。
もう少し反応があると思ったと佐藤さんは話してました。

その佐藤さんも息子の寛一郎さんが成長し俳優への道を歩むことになりました。
寛一郎さんから聞いた時に発した言葉は「あっ、そう」でした。

三國さんは佐藤さんが出演した映画は全て観ていたとのことです。
目立たないように地方の劇場で鑑賞していたということです。

「あっ、そう」という言葉を聴いてふと思い出したことがあります。
この言葉は昭和天皇の口ぐせでした。

園遊会で歓談している時に発する昭和天皇の言葉は「あっ、そう」だけでした。
テレビで聴いたこの言い回しは今も耳に残ってます。

政治思想史研究者の松本健一さんがこの天皇の言葉を論じてます。
『日本人が世界史を描く時代』PHP1994年です。

昭和天皇は戦後は「無為と無私」を貫いたとのことです。
その態度を象徴するのが「あっ、そう」だと松本さんは述べてます。

戦後民主主義の象徴的な考え方の「私」を主張しない訳です。
象徴である天皇が意思を示すことで国民の中に対立を招くことを避けたと解説しています。

全てをありのままに受け止めるだけです。
松本さんは戦前の失敗から学んだ態度だと記述しています。

松本さんによれば天皇は日本国民のために祈る存在です。
祈る立場として最も適切な言葉として選んだのが「あっ、そう」となります。

軽い言葉と考えてはならないと思います。
昭和天皇の奥深い思慮に基づいた言葉と考えるのが妥当です。