溝口睦子『アマテラスの誕生』岩波新書2009年刊

アマテラス、漢字で書けば天照、日本の根っからの太陽の女神だと思い込んでました。
さん然たる地位は歴史的に創られたものだと知りました。

きっかけは東京・湯島で精力的に討論サロンを開催している佐藤修さんからの指摘です。
私が話題提供者だった時に女性天皇誕生への期待をアマテラスになぞらええて語りました。

”現代のアマテラス”の誕生をという言い回しに異論が示されました。
古代史の研究家の溝口睦子さんが書いた岩波新書の『アマテラスの誕生』を紹介されました。

読後感は目からうろこでした。
アマテラスへの理解が浅はかだったことを深く反省しました。

アマテラスと言えば『古事記』の天岩戸の神話があまりに有名です。
岩の中に隠れてしまったアマテラスを引っ張り出すための神々の乱痴気騒ぎの話です。

女神がストリップショーまがいのダンスを踊り男神たちがはやし立てました。
楽しげな様子を見ようと外に出たアマテラスを捕らえて再び天上界に光が戻りました。

何と楽し気でおおらかな神話だと誰もが思ったはずです。
この印象があまりに強く太古からアマテラスは神々の中心に位置すると思っていました。

溝口さんによればアマテラスが現在の地位を占めるおようになったのは奈良時代になってからです。
『古事記』の編さんはアマテラスを中心に据えるための作業でした。

天武天皇が直接編さんに関与したことが書かれていました。
アマテラスを祭り上げる重大な理由がありました。

中国の制度を応用して日本でも中央集権的な体制を創り上げる時期でした。
天武天皇は神々の神話の歴史を根本から整理し直したのです。

伊勢の地域の土着の太陽の神であったアマテラスをいわば抜てきしたのです。
アマテラスはローカルスターからメジャーデビューを果たしたようなものです。

北方の大陸系の神々ではなく土着のアマテラスに特別の地位を与えたところが響きました。
新たな日本を創ろうとする天武天皇の強い意志を感じました。