選挙対策優先の軽減税率導入決断の危うさ

再来年の4月に税率を10パーセントに引き上げる予定の消費税をめぐって軽減税率の導入の動きが本格化してきました。安倍総理自ら指示を発しました。

 

菅官房長官が主導しているのは間違いありません。安倍総理の指示を出す前に自らの記者会見で10パーセントアップと軽減税率の導入はセットだと断言しました。

野田税制調査会長の更迭も菅官房長官が推し進めたのでしょう。野田会長は何かと目障りな存在でしたのでこの際一気に首を切ろうというやり方でした。

なぜ菅官房長官は自民党の税制調査会長を交代させてまで軽減税率の導入をしようとしているのかというと目線は税制そのものには無いように見えます。

公明党の存在です。公明党が主張しているからこそ重要視されます。仮に民主党が主張しても相手にされません。理由は簡単です。公明党との選挙協力の維持です。

安保法制をめぐって公明党の支持母体の創価学会と安倍政権との間で微妙な隙間風が吹いたと見るのは常識的見方です。放置すれば次の参議院選挙に影響が出ます。

ここは軽減税率に対して異論があるにせよ公明党が導入を主張しているという政治的な事実を重視して決断したと推測します。税制より選挙だということです。

気になるのは短期的な選挙の思惑が優先されて本来のあるべき制度設計とかけ離れてしまうことです。その危険性は無いとはとても言えません。

軽減税率が入れば小売業者の負担が増えることは間違いありません。小売業者は中小零細企業の数が圧倒的です。自民党の支持基盤にも影関わります。

食料品などの税率が低くなるのは消費者は歓迎しますがそもそもどこで線引きするのかという難問があります。枠を広げれば税収は減ります。

今回の消費税率アップの地祇名分は社会保障屋にかかる財源の確保にありました。消費税の税収が減れば社会保障に充てる財源は減少します。

あちらを立てればこちらが立たずのジレンマがあります。だからこそ軽減税率をめぐる議論は難航し決着がつかなかった訳です。しかし選挙対策で一気に流れが出来ました。

果たしてこれで良いのだろうかという疑問は残ります。消費税の税率アップに伴う逆進性、所得の低い人の方が不利になるという問題が本当に解決されるのかが判りません。

所得の高い人も低い人も食料は必要だから逆進性が生じると言われますが消費動向の実態に基づいて本当にそうなのかの根拠が見えてきません。

所得の低い人が安い加工食品を購入すれば消費税が10パーセントで所得の高い人が新鮮なマグロの刺身を購入すれば8パーセントということになります。

軽減税率は消費者特に低所得者にとって本当に有利なのか実態に即して検討し導入を図る必要があります。中小零細の小売業者だけにしわ寄せを強いる訳には行きません。

実際に制度設計をめぐって色々と意見が出てくるでしょう。公明党との選挙協力優先の決断が自民党の支持基盤を逆に揺らす可能性もあります。まだ予断を許さないと見ます。