従軍慰安婦問題をめぐる日韓合意から安倍政治の本質を探る。
今年は、安保法が成立し、安倍政権が、日本の進路をどのような方向に導こうとしているかが明確になりました。一言でいえばアメリカとの同盟最優先です。
このように書きますと日本側に選択の余地があり自主的に判断したと思われますが違います。安倍政権の思考回路からすれば選択の余地のない進路です。
外務省2015年最後の仕事納めとして日韓外相会談がありました。懸案の従軍慰安婦問題において合意が成立したと両国政府は発表しました。
日本は従軍慰安婦問題に対して日本国政府の責任を認め新たな基金の創設を約束しました。韓国政府は在韓日本大使館前の従軍慰安婦象の撤去に向けて努力するとしました。
この両国間の合意に対するアメリカ政府の反応を見れば日本と韓国政府の行動を促した最大の要因がアメリカの国家戦略であることは明らかです。
アメリカの極東アジア戦略にとって日本と韓国の協調が必要だったのです。安倍総理もパク・クネ大統領もアメリカの戦略の枠内で権力を有しているに過ぎません。
両首脳とも自らの思想信条をいとも簡単に変えて見せるのですからアメリカの圧力は依然として健在です。アメリカの戦略がまず根本を為すことの証明です。
しかし従軍慰安婦問題は両国の国民感情に密接に関わる課題です。冷徹な国際政治の判断とは別の感情原理で動きます。溝は埋まらず問題は複雑化するでしょう。
今後の展開は別にして安倍総理が自らのこれまでの主張をころりと変えたことに注目する必要があります。アメリカの後ろ盾があれば大胆になるのです。
もしアメリカの後ろ盾がなかったとしたら、安倍総理が日韓国交正常化50周年の節目の年に日韓関係を改善するという意欲がこれほどまで湧いたとは到底思えません。
アメリカの国家戦略、すなわち中国の台頭に日米韓の軍事同盟強化路線で臨むという基本路線に同調することを金科玉条にして自らの思想信条を引っ込めたのだと思います。
果たしてこうした政治決断が画期的なのでしょうか。到底思えません。本質はアメリカ追随のドラマをあたかも自主的な判断であるかのごとく演じているに過ぎません。
台本の新の書き手がアメリカであるので安心して大胆に堂々と振る舞っているのではないでしょうか。寄らば大樹の陰的な敗戦国の根性は健在です。
表面的な堂々さに幻惑されてはなりません。安倍総理が真の国士ならば外務大臣などに任せずに韓国に乗り込んで直談判したはずです。実際は背後に退きました。
安倍総理は日本を取り戻すとスローガンを掲げていました。その日本がアメリカが考える戦略の中でしか存在しない日本であるとするならば欺瞞です。
アメリカという大樹の陰に隠れて権力を振るうという本質を持ちながら日本を取り戻すことはできません。取り戻すには自主性が不可欠だからです。
国家としての自主性がなく総理自らの精神構造も負け犬根性に侵されているとしたら表面的にどのように強がっていても自己矛盾に陥るだけです。安倍総理の抱える根本問題です。
安倍総理が真の政治家であるかどうかが実は問われています。アメリカの戦略に乗って権力者を演じるピエロに終わってしまって良いのかが自問自答が必要です。