独創性を受け入れる。
3月11日、東日本大震災から5年たった当日、東京・お茶の水小学校のすぐそばにある古いビルの一室を訪ねました。国土再生研究所という民間会社です。
お茶の水小学校の脇には、文豪、夏目漱石の出身学校であることを示す石碑と案内板が立っていました。私は、小説は、ほとんど読みませんが『三四郎』は読みました。
熊本から上京する車中である教師と出会い日本の行く末について「滅びるね。」と断じた場面が印象に残ってます。時代は、日露戦争に勝利した後です。
日本は一等国になったと浮かれている国民が多い中で冷徹に日本の将来が暗いと小説の登場人物に言わせたのです。漱石の先行き不安が表現されていたと思います。
明治44(1911)年8月に漱石は和歌山県で「現代日本の開化」という講演を行っています。日本の近代化のあり方について厳しく批判しているのです。
日本の近代化(=開化)は西洋と違って外から持ち込まれたもので「皮相、上滑りの開化である。」と断言しています。だから悲観的にならざるを得ないという訳です。
漱石の晴眼だと思います。物真似では限界があります。内から湧き上がってきた精神にのっとり自らの力で新しい文物を開発し時代を拓くのが本来の姿です。
漱石の投げかけた日本への視点は100年以上たった今も有効だと思えてなりません。先進地域は西洋で西洋の真似をしようという意識は非常に根強いです。
自分たちの足元を自らの視点で見て自分たちの手法で新たんて行く、あるいはまったく新しいものを創り出すというのが相当に苦手な国です。
明治維新になって西洋の文物をとにかく受け入れて猛スピードで近代化を図った歴史の負の遺産は国民の間にしっかりと根づいてしまっていると思います。
日本の中で独創的な技術を持っている方は大勢いられます。しかし既存の仕組みの中ではなかなか芽が出ません。西洋の科学技術の発想に適合しない技術は光があたりません。
国土再生研究所を実質一人で切り盛りする栗原光二さんの「フォレストベンチ工法」もそうした技術の一つです。コンクリートこそが最強だとの常識に阻まれてます。
(フォレストベンチ工法 真鶴町での実例)
斜面を段々畑のようにして鉄製のネットと透水性のある素材で衝立を作って土留めをして、段々畑には樹木を植えて樹木の根が張ることで強度を高めるという手法の土木技術です。
素朴と言えば素朴な技術です。肝は、水と戦わないで透水性を保つことです。水の圧力から逃れられるという発想です。衝立は斜面にアンカーを打ち強度を保ちます。
3・11ではこの工法を施行した斜面は津波に洗われても崩れませんでした。宮城県気仙沼市であった実例です。水が抜けて水圧が下がることが功を奏したとされてます。
日本じゅういたるところで斜面沿いの開発がされてます。フォレストベンチ方式は自然の景観を保ちながら斜面の崩落を防ぐ有効な手立てです。
公共事業に活用して欲しいです。そのためには、明治時代に西洋の技術を取り入れて以来のコンクリートこそが最善だとの思い込みから脱することが必要です。