生前退位問題と合わせて象徴天皇としての行動基準を論議すべき。
今年1年を振り返ると天皇陛下の生前退位をめぐる論議が行われた年として後々記憶されると思います。全く異例の展開で論議の火ぶたが切られました。
7月13日のNHKがいわゆる特ダネとして報じました。夜7時のニュースでした。私は宮内庁筋から情報が流れたと思いました。当然天皇陛下は承知のことでしょう。
8月8日には、天皇陛下のお言葉がありました。肉体的な衰えを感じている現状を踏まえ象徴天皇としての務めをどう果すか悩まれている胸の内が語られました。
政府は、10月に有識者会議を設置し生前退位問題の検討を始めました。現在の天皇陛下一代限りの特別立法で生前退位を認める方向で議論を進めていると報じられてます。
今月初めには、天皇陛下が学友に生前退位について一代限りではなく恒久制度を望まれていると打ち明けていたとの報道も流れました。不可思議なニュースの出方です。
宮内庁からの世論誘導が感じられました。宮内庁が思い描いていた論議の方向と異なる方向で議論が収束してしまうのを止めようとしたとしか思えませんでした。
天皇陛下のお気持ちを尊重したいという宮内庁の思惑があるのだと思います。論議の主導権をめぐって総理大臣官邸との駆け引きが水面下で展開されていると思いました。
天皇陛下が生前退位を望まれている理由は象徴天皇としての務めが果たせなくなるのではないかという強い懸念です。では象徴天皇としての務めとは何でしょうか。
この点があいまいなのが気になって仕方ありません。論議も深まってません。「お言葉」のよれば「日本の各地、とりわけ遠隔の地や島々への旅」を強調されています。
被災地の人々を勇気づけたり平和の大切さを訴える行動だと推察します。大変に尊い行為です。しかしどのような基準で訪問先を選定されるのか明確ではありません。
憲法では、第4条で天皇は憲法に定める国事行為のみを行うとされています。国会の招集など憲法で定められた国事行為と象徴天皇としての行動とのかい離が起きています。
今年の天皇誕生日の記者会見では私的旅行として長野県阿智村の満蒙開拓平和記念館を訪れた感想を語られています。違和感を覚えました。
「日中双方を含め、多くの犠牲者を出した満蒙開拓の史実を通じて、戦争の悲惨さ、平和の尊さを学び、次世代に語り継ぐと共に国内外に向けた平和発信拠点とする。」
記念館のホームページには事業の目的がこの様に書かれています。天皇陛下として平和を祈るのに相応しいとして訪問先を選んだに違いありません。
天皇陛下が、満州開拓をめぐる負の歴史を示す記念館を訪れることに対する反発を意識して私的旅行としたのではないかとの疑念が生じます。
憲法の第1条に定められた象徴天皇に相応しい行動基準がないあいまいさが混乱の元です。天皇陛下のご意向が基準となってしまっては憲法の大原則の国民主権に反します。
天皇陛下の思いがいかに平和への思いであろうと憲法の原則に沿った行動が求められます。生前退位問題と合わせて大いに議論する必要がある重大問題です。