中国訪問記2~理論から実践へ~
曲阜師範大学で開かれた第8回国際二宮尊徳思想学会、大きな分岐点を迎えたという印象を強く持ちました。
この国際学会は、日本語が堪能な中国人研究者と日本の二宮尊徳研究者で2003年に発足しました。
この学会の構想の端緒は2002年6月北京大学で開催された「二宮尊徳思想国際シンポジウム」の場です。
21世紀初頭、中国の経済発展が本格化して生きた状況の中で二宮尊徳思想への関心が高まったことが背景にあります。
発展に伴う様々な社会問題を解決するにはどうしても道徳的要素が不可欠ですので二宮尊徳思想に行き着いたと想像します。
15年が過ぎて中国は、GDP=国内総生産では世界第二位の経済大国へと大きく躍進しました。
物量的には日本を凌駕する存在になった中国。格差が進展し矛盾も一方で深刻化しています。
その典型的事例が農業・農村・農民のいわゆる三農問題です。こうした具体の事例にどう立ち向かうかが課題です。
今回の大会では中国の農業研究者が中国の農村の貧困問題を取り上げて二宮尊徳思想による解決を模索していました。
研究者によると生活費が稼げない絶対的な貧困者がまだ3500万人程度は存在するとのことでした。
7億人から8億人が農民です。貧困者の割合は確実に減少しています。しかし母数が大きいので貧困者の数は膨大です。
河北省や貴州省の調査事例を述べていました。写真に映し出された農村はあばら家で悲惨な生活が一目瞭然です。
中国も発展し政府に資金の余裕ができ様々な援助が実施されるようになったことの弊害が出ているとのことです。
自ら自立しようとする意欲がなく援助に頼る生活をしていて心の問題の解決が重要であると強調してました。
二宮尊徳の言うところの「心田開発」。意欲を喚起しないといくら援助しても問題解決につながらないというのです。
研究者の発表を伺っていて二宮尊徳が小田原藩主の命を受けて最初に桜町(現栃木県真岡市)を訪問した時のようです。
農民たちは怠惰でばくちとお酒で日々を暮らしている様子が二宮尊徳の伝記に描かれています。
二宮尊徳は幾多の困難を経て桜町領の再生を果たすのですが中国の農村の貧困問題に直結するかどうかが課題です。
二宮尊徳は、有能な農民を表彰する制度やモデル的地域を先行させて成功実例を積み重ねる手法をとりました。
国民性の違いもあり有効であるかどうかは一概には言えませんが挑戦し実践してみる価値はあります。
参加された研究者から適当な地域を選択し貧困問題の解決にむけて二宮尊徳手法を応用して欲しいとの意見が出ました。
国際二宮尊徳思想学会が大きく変化しようとしていると感じた一瞬でした。実践に向けて意見が出る大会になりました。
これまでは哲学、歴史学といった分野の研究者が数多く参加されてましたので話がどうしても理論中心となります。
農業などの実業分野の研究者の参加により議論の中身が具体的で実践的になっていきます。
私はこの傾向をより一層強化すべきだと思いました。それは二宮尊徳自身が実践家であるから、その一点です。