先崎彰容著『維新と敗戦』を読む。
平成最後の年末年始は、妻と2人、ほこりまみれの日々でした。自宅前の倉庫の片づけに大忙しでした。
息子家族が倉庫を壊して家をを建てるため倉庫の中に詰め込んでいたものを整理しなければなりませんでした。
ほこりとの格闘の日々の中で時間を見つけて一冊、熟読した本がありました。先崎彰容(あきなか)著『維新と敗戦』でした。
先崎さんは、日本大学危機管理学部の新進気鋭の教授で、近代日本の政治思想などを研究テーマとしています。
大学でときおり言葉を交わすことがあります。鋭い方です。近代政治思想の分野で大きな業績を残すと思います。
さて、その先崎さんが書いた『維新と敗戦』は、明治維新によって始まった「近代」とは何かを問う本です。
とても難しく聞こえるかもしれませんが中身は入門書に相応しい体裁を整えていて問題関心がある人なら読みこなせます。
というのは人物の伝記に近い形で紹介されているからです。後半部分で先崎さんの解説がまとめられている形式です。
伝記と考えればとっつきやすいですので明治維新から150年が経過し平成最後の年となった今、おすすめの一冊です。
先崎さんは、思想家、作家、歌人、研究者ら、日本の近代とは何かという課題と格闘した23人を選び出しました。
福沢諭吉、石川啄木、三島由紀夫といった著名な方を始め重厚な面々が揃っていて入門書であっても読み応えがあります。
先崎さんの問題関心の根底にはなぜ日本の民主主義には国を思うナショナリズムがないのだろうか。
また逆に日本でナショナリズムを主張する人たちにはなぜ民主主義に対する感覚が乏しいのだろうかという重大な疑問が流れてます。
わかりやすく言えば、左右の対立の根源を探り、両者の橋渡しは果たして可能なのだろうかということです。
先崎さんの問題意識は、現代の政治状況の中で、きわめて重要な視点を提供していると思います。
自民党一強と言われる現状は、右派、保守の圧倒的優勢の時代です。民主主義が軽んじられる傾向にあるわけです。
一方、現状を打破しようとする民主主義勢力、左派の方は、国家をどうするかという意識が足らず本格的議論になりません。
結果として右派、保守勢力は、数の力で意思を通すことに専念し、民主主義勢力、左派の方は、反対一辺倒に陥ります。
明治維新から150年が経過し、誰の目にも、日本という国家の存続が危ぶまれる状況になってきています。
人口が減って国力が弱まっている時期に隣国中国は国力を増し、同盟国アメリカは、自らの利益最優先だからです。
また、地球温暖化の影響と見られる異常気象により災害は大規模化しています。右だ左だと言っている場合ではないのです。
しかし政治の場では、日本の150年の歩み自体が問われているという本質に迫る議論はなされていません。
この現状を打破するためには日本の近代とは何かを深く考え格闘してきた人物が残した思想を再点検することが不可欠です。
先崎さんの著書は、大げさに言えば、現代日本の危機を救うための手がかりを得るための入門書です。