私の平成史㉕~企業誘致6~

富士フイルム先進研究所は、2006年4月に開所しました。着工から1年5か月でした。

私は、開所式で仏陀が悟りを開くきっかけとなったスジャータの逸話を紹介しました。

2500年前、インドに生まれた仏陀は難行苦行をして悟りを得ようとしましたが目的を達成できませんでした。

川のほとりで痩せこけて休んでいる仏陀を見て、村の娘、スジャータが乳のおかゆを与えました。

仏陀は、再びめい想に入り、悟りを開いたと伝えられています。有名な話ですのでご存知の方も多いと思います。

言いたかったのは、最先端企業の世界に誇る研究所が開所したのを受けて開成町が取り組む基本姿勢を述べたのです。

仏陀が悟りを開いたのは、ほっとする一瞬がきっかけでした。そうしたほっとする空間を提供したいということです。

研究員たちが外に出て美しい景観に癒され新たなアイデアが湧き出るようにしたいということです。

そうしたまちづくりを進める努力を惜しまないと富士フイルムの古森社長らに宣言した訳です。

富士フイルムの先進研究所誘致のドラマは、劇的であり、まちづくりの歴史に残る快挙だと思います。

外から降って湧いたのではなく、図りに図って自らの感性を信じスタッフの協力を得て推進した物語です。

絶対に参考にしてもらいたい要点がいくつかあります。企業誘致を目指している自治体に参考になるはずです。

最も大切なことは、強烈な思いが先で、その後に実現のための人ものカネが集まってくるということです。

誰かが絶対にやるという断固たる意思を示すことが最優先の課題です。順番を間違えてはなりません。

誰かとは、トップのことにほかなりません。首長が絶対にやり切ると宣言し行動しなければ始まりません。

スタッフ任せにしたり、コンサル任せにしたり、あるいは県の担当に丸投げしたりでは実現可能性ゼロです。

次は、決定権限がある人が行動しなければ時間の無駄です。小さな自治体では、トップ以外にあり得ません。

思いが先、トップ自ら行動に移す。このふたつができれば、困難は乗り越えられる可能性が出てきます。

続いて時代の潮流を読み切って、自らの地域に最も適合した産業は何かを見極めることです。

開成町は、隣接する市に富士フイルムの本社工場があり、デジタル革命進行中で研究開発投資があると読んだのです。

全国各地域、それぞれの事情が異なります。トップが地域にあった産業を絞り込んでいくことが大切です。

情報発信したくても産業が絞り込めなければ具体の話になっていきません。一般論は意味がありません。

あとは行動です。じっとしていては事態は動きません。やみくもに回るのではなく、照準を絞ることです。

相手側もトップでないと話が迅速に進みません。企業誘致に関する限り下からの積み上げはまずありません。

県や開発に関連する民間企業も同志です。こちらもトップ同士が強い信頼関係で結ばれることが大きな効果を生みます。

上下関係やタテ割りにこだわってはなりません。トップ同士がつながればこの種の壁は楽々と越えられます。