岡田准一主演の白い巨塔の感想ブログの最終回です。財前五郎は、死の間際、悪態をつきます。

自らの野心の実現のために利用してきた医学部長がベッドを取り囲む人たちの中にいるのを見つけるとののしりました。

このシーンを見ていて自分の過ちにいたたまれず不平不満をぶつける相手を見つけ必死でもがいているように見えました。

死に際にはその人の人生が凝縮されると思えるいちシーンでした。ふとある本が思い浮かびました。

ロシアの文豪、トルストイの『イワン・イリッチの死』でした。とても薄い本です。慌てて探しました。

見つかりません。代わりに見つけたのが1993年の7月に発行されたNHK人間大学のテキストでした。

タイトルは、「死とどう向き合うか」でした。当時、上智大学教授のアルフォンス・デーケンさんが講師でした。

テキストの発行日付を見てはっとしました。私は、この年の8月にNHKを退職しているからです。

当時の私の様子が浮かんできます。自分の人生をどう生きたらよいのか深く思い悩んでいました。

退職の決め手となったのは、人生最期の時に「自分の人生は間違っていなかった。」と納得したいという思いでした。

私がもがいている時に手に取っていたのが「死とどう向き合うか」というテキストだったのです。

このテキストには、トルストイの『イワン・イリッチの死』が詳しく書かれているのです。

世界的名声を得ていたトルストイは、50代の半ばで深刻な精神的危機を迎えてしまいます。

10年近く創作から離れ、その後に書かれたのが『イワン・イリッチの死』でした。

ごくごく平凡なお役人人生を送っていたイリッチは、不治の病に取りつかれてしまいます。

死の床で恐怖と苦痛にもだえ苦しみ悪態をつく日々でした。しかし死の直前に突然悟りました。

これまでの生き方の誤りに気付かされて冷静な自分を取り戻したのです。死を恐れない自分を見つけました。

岡田准一が演じた財前五郎はイリッチのような悟りには到達しなかったように見えます。

黒沢明監督の名作に「生きる」という作品があります。この作品もテキストの中で紹介されています。

私にとっても人生観を決める映画でした。主人公は、平凡な地方公務員でした。死の病に侵されます。

そこから主人公の人生は一変します。何か社会のために役立つことをしようと公園づくりに奔走します。

主人公は言葉に表せないような満足感を得ます。ブランコに乗って歌を口ずさむシーンは、とても有名です。

良く死ぬということは、すなわちよく生きることにほかならないということを鮮烈に示した映画です。

岡田准一が演じた財前五郎は、最期を見る限り満足できる人生ではありませんでしたし、最期の悟りも不確かでした。

天が財前に与えた使命をどこかで忘れてしまった結果だと思います。非凡な才があっても使命を忘れては末路は哀れです。

逆に普通の人でもよりよく生きることに目覚め実践すれば人生の最期に最高の祝福が待っていることを黒沢作品は示してます。