専門力×素人力=地域防災力アップ

神奈川県温泉地学研究所主任研究員の萬年一剛さんが最先端の知見をもってしても火山噴火は予知できないと述べました。

そもそも最新の科学的知見によれば人間の目に見える現象は全体の数パーセントに過ぎないということですので当然です。

科学技術は、私たちの暮らしを便利にしましたが頼り切るのは思い違いだということです。

自然災害に対しては特にそうです。わからないことだらけという真実を常にわきまえて対応する必要があります。

ここに素人が活躍する余地があります。素人の視点で過去の災害を見つめ直して教訓を探してみるのです。

私たち足柄の歴史再発見クラブの活動はまさにそうした取り組みです。素人による再発見への挑戦なのです。

素人の強みは専門家だと当然のこととして見落としてしまう事象に新たな光を当てることがあります。

前作の足柄歴史新聞『富士山と酒匂川』の制作を通じて素人の視点からいくつかの事実を再発見しました。

もっとも大きな再発見は、神奈川県西部を流れる酒匂川は、人工的に流れが変えられているという事実です。

戦乱の世が終わり江戸時代になって大規模な治水工事が行われて川の流れが変えられました。

流域を水田地帯とするために流れを変えて農業用の水路をいく筋も作ったのです。

際立って重大な再発見です。人工的な水系ゆえに弱さが隠れています。その典型が富士山噴火です。

噴火の砂で人工的な水の流れは破壊されてしまい元の自然の流れとなり甚大な洪水を引き起こしました。

洪水になる以前の農民のとてつもない努力も再発見しました。いわゆる天地返しです。

噴火の砂に埋まった農地を人力だけで掘り起こし砂の下の土を砂の上に乗せる作業をひたすら続けました。

再び噴火が発生した際、現代の手法で掘り返す取り組みを行う場合の貴重な手掛かりとなることは間違いありません。

かすみ堤についても問題提起しました。富士山などを源流とする酒匂川に3か所残るかすみ堤の意義に光を当てました。

治水の前提となる降水量をはるかに上回る降水量が当たり前になった現在において、その意義は大きいです。

堤防を人工的に2重にしていざという時に遊水地などの機能を果たすかすみ堤はもっと注目されて良いです。

なぜ堤防が切れているのかという素朴が疑問からスタートして江戸時代の治水術であることに辿り着きました。

出前授業で小学生に説明すると目を見張ります。もっと堤を高くしたり河床をを掘ったらどうかという提案もありました。

このほかにも酒匂川の治水の難所に建てられている神社の守り神は中国の治水神禹王であることを再発見しました。

富士山噴火後の酒匂川の治水事業は、中国の大河、黄河を治めた禹王に匹敵する大事業だったのです。

富士山噴火の被害がいかに甚大であっても私たちはその困難を乗り越える覚悟を持つべきです。

現代科学の専門的知見が及ばない部分は、素人の視点から光を当てて、克服する道を探り続ける取り組みが必要です。