香港民衆とアイデンティティー

アイデンティティーという学術用語、自己同一性と訳されます。しばしば政治の場面で登場します。

自己同一性とは、自分が自分であることを確認するものということです。何のことだかわかりません。

まして政治の現場の用語としては、この翻訳は不適格です。私は、譲れない一線と捉えたらどうかと思います。

日本人として、それは原点だから譲れない何者かを称してアイデンティティーと言っているとということです。

香港民主が先の区議会議員選挙で示した民意の背景には、香港民衆のアイデンティティーがからんでいると思います。

香港民衆として譲れない一線を中国政府と香港の行政当局が犯そうとしたことへの抵抗だと見ています。

だからこそ過激な若者の行動も許容され、むしろ支持を拡大する起爆剤になったと見ています。

譲れない一線とは、香港の民衆がこれまで享受してきた政治的自由と民主主義のことです。

香港には、中国本土とは全く異質の歴史をただりイギリスによる植民地として過ごした150年間があります。

第二次大戦後は、急速に経済の発展を遂げて東アジアを代表する都市国家として存在感を示しました。

韓国、台湾、香港、シンガポールの4国がアジアの4小龍だと称賛されて歴史を持っています。

政治的な自由と民主主義により高度の自治が保障されてきました。中国とは、別個の国と言って良いです。

1997年に香港がイギリスから中国に返還される際に香港の自治は保持することが約束されました。

現実主義者の鄧小平は「一国二制度」という巧みな提案により香港の中国復帰を成し遂げました。

習近平政権はこの原則を改めて中国本土の支配権を強めようとしたわけです。これに香港民衆の怒りが爆発しました。

譲れない一線を越えたと見ました。香港民衆の怒りは政治的自由と民主主義の保障がない限り収まりません。

習近平政権は地雷を抱えました。反発が更に激化し強硬策に打って出ると地雷は爆発します。

習近平政権は、とんでもないリスクを抱えることとなりました。このリスクは海を越えて拡散することが確実です。

台湾です。独立志向の強い民進党の蔡英文総統は来年早々の総統選挙の再選に向けて独自色を強めます。

当選すれば台湾は台湾であって中国と同一ではないとの主張をより強固に打ち出すのは確実です。

台湾で中国との協調を主張しているのは第二次大戦後大陸から逃げてきた国民党の流れです。

外省人と言われルーツは中国本土です。元々台湾に住んでいた内省人とは全く異なる歴史を辿ってきました。

またもやアイデンティティーが主題となります。香港と同じ状況が生じると言って良いでしょう。

香港のように激烈な反対行動はないものの正当な選挙を通じて台湾のアイデンティティーは明確に示されます。

台湾は、台湾で中国ではないという意思表示です。香港に端を発したアイデンティティーを確認する動きの拡大です。

偉大なる中華の復権を目指し強大化を志向する習近平政権にとって立ちはだかる壁になると私は思います。

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