まちづくりを成功させるための人事の基本
1998年2月に神奈川県開成町長に就任した私は、ある人のところに足繁く通い助言を受けました。
私の父、露木甚造が町長をつとめていた時代、3期12年にわたり助役として支えた下山徳男さんです。
慎重でち密な方です。ロマンを追いかけ大風呂敷を広げる父を上手にコントロールしていた様子が目に浮かびます。
下山さんがそのような人材を登用したらよいのか単刀直入に語ったことがあります。よく覚えています。
シンプルです。土地交渉をさせてみればその職員の力量はすぐわかると断言していました。
どんなに立派なことを言っていても難しい交渉ごとになると及び腰になる職員にはダメ出しをしていました。
学歴などは一切関係がないということです。粘り強く交渉し説得できるかどうかを見ればよいというのです。
下山さんの助言は、私の人事のひとつの根幹をなしました。土地交渉の様子を常に気にかけていました。
土地交渉は主に技術系の職員が当たることが多いです。住民の側の主張を一方的に聞いてくるケースが目立ちました。
行政の立場もきちんと伝える強さを持っていないと交渉にはなりません。しかしけんかしてはいけません。
度胸と技の両方が相まっていることが必要です。人材を見極めるのにはこれほど適当な場面はありません。
私はある人物の力量を見極めるのに下山徳男元助役の助言をそっくりそのまま適用したことがあります。
開成町の今日の発展の基礎中の基礎をなす富士フイルム先進研究所の誘致を含めた開発に関わる土地交渉でした。
のちに副町長に抜擢することになる小澤均さんを土地交渉の責任者に位置づけ任務の遂行を求めました。
結果は、私も驚くような成果を極めて短期間に挙げました。。たまげたと言って良いです。
いまでの鮮烈に覚えていますが休日の日に私が自宅でくつろいでいると小澤さんが部下を引き連れてやってきました。
地権者の方々の同意がおおむね取れそうだとの報告でした。「えー、もうできたの!」と仰天しました。
ちょうど梶山静六さんから茨城のヒラメが届いていてこれを食べて慰労してと慌てて対応したことを覚えてます。
一連の土地交渉で小澤さんを副町長に抜擢するというプランは、単なる案ではなく確信に変わりました。
2007年3月に小澤さんは50代そこそこの若さで副町長となりました。開成町の屋台骨を支える存在となりました。
昨今、まちづくりというと巧みなキャッチフレーズを付けたり表面的な事象への関心が強すぎるように思えてなりません。
耳目を引くようなキャッチフレーズを付けることも大切ですし、町のキャラクターも必要です。
しかし、それらは、まちの発展をけん引する実態があって始めて成立するという基本を忘れてはなりません。
開成町の場合で言えば困難な土地交渉を経て富士フイルムの誘致を成功させ土地区画整理事業を完成させたことです。
その結果”田舎モダン”というしゃれたキャッチフレーズを付けても恥ずかしくない状況が出来たことが基本です。