”変人”農業経済学者からの警告
大学の研究者と接していると俗いう変人と出くわすことがあります。とことん突き詰めるタイプの方にありがちです。
そんな友人のひとりに明治学院大学教授の神門善久さんがいます。10年来のお付き合いです。
専門は農業経済学で日本の農業の課題を徹底して現場を見て歩くことでえぐって鋭く指摘し続けています。
神門さんより突如連絡があり、異業種交流会に招かれて講演をするので聴きに来ませんかということでした。
タイトルに惹かれました。「人工知能と日本農業」でした。今最もホットな話題であるAIがテーマです。
即座に行きますと返事をしました。東京飯田橋のビルの会議室で行われ36人の参加でした。
誰もが知っているような一流企業の技術系の現役とOBの方々でした。様々な業種の方で情報交換の場でもありました。
神門さんと人工知能が今ひとつ結びつかないと不思議でした。会場で資料をとって目を通すと、すぐに疑問は解けました。
いわゆる人工知能の技術的発展の側面を解説するのではなく人工知能が将来の農業にどんな影響を及ぼすかの話しでした。
神門さんは日本農業を憂いてます。講演でも再三にわたり農業名人の喪失による技量の低下を指摘してました。
農業は一般の工業産業のように作業工程を分解してそれぞれの効率性を徹底して求めることができません。
気候や土をはじめとする自然を相手ですので不確実性が伴います。総合的に観る視点がどうしても必要です。
極点な言い方をすれば思いもよらないことがしばしば起きて行き当たりばったりにならざるを得ません。
神門さんによれば農業名人たちは長い経験に裏打ちされたカンによって異変を察知して調節するのだといいます。
数値化できるものではありません。そうした技量は、ほとんど伝承されないままどんどん消えているというのです。
高い技術力を誇っていると思われている日本農業の技術力は、高度の機械化が進むとともに低下するという矛盾があります。
今後、農業の様々な分野に人工知能が採用されて更に効率的な生産を目指す流れは一層進むことになります。
人工知能は学びますので経験を積めば積むほどその分野における効率性を徹底して高めて行くことになります。
コンピューターの操作によってそれは実現されますので土との接点が売りの農業においてもリアルな現場感がなくなります。
泥まみれになりながら失敗を繰り返すことが楽しいという農業らしい原体験が乏しくなります。
神門さんは、こうした状況が行き着く先を警告してます。効率化を追及した挙句、農業は人間から遊離していくというのです。
神門さんは更に議論を一歩進め、逆説的に参加者に問いかけていました。人工知能の方からダメ出しをされるというのです。
もっと規模を小さくして農業者と作物が直接関わりあう農業を復活させないとダメだと警告されるかもしれないというのです。
神門さん流の言説は常に極論です。しかし物事の本質をついています。鋭い問題提起だと思いました。