スペイン風邪に学ぶ

昨日に引き続き大正時代に39万人の死者を出した新型インフルエンザ、スペイン風邪について書きます。

100年以上も前のことだから医学的知識が乏しく公衆衛生上の対策落ち説だから被害が大きくなったと思いがちです。

ところがそんなことはありません。明治維新以降の日本は西洋の科学をどんどん取り入れて近代化を図りました。

医学や公衆衛生も例外ではありません。スペイン風邪の発生を受けて当時の最先端の知識を取り入れて対応を取りました。

昨日のブログで紹介した山本太郎著の岩波新書『新型インフルエンザ』の中に興味深い政府の対応策が紹介されてます。

スペイン風邪がヨーロッパから襲来し日本でも大流行していた大正8年、1919年1月に出された指針です。

タイトルは、「流行性感冒予防心得」となっていて発行者は内務省衛生局、今の厚生労働省です。

冒頭で咳やくしゃみによる飛沫感染に注意することが書かれています。治った人も感染の危険性があるとしてます。

罹らぬためにはということで4点列挙されてます。まずは病人や病人らしきものには近づくなとしてます。

見舞いは玄関先で済まし、病人のいる家は、客人を病室に入れることを厳禁するよう付け加えています。

続いてたくさんの人のいるところに立ち入らないよう注意喚起してます。芝居や寄席や活動写真(映画)を例に挙げてます。

急用ではないならば電車ではなく歩いたほうが良いとも書かれてます。とにかく人に近寄る時は用心としてます。

3番目は、人の集まる所や電車や汽車の中では必ず「呼吸保護器」をかけて飛沫を吸い込まないようにと注意喚起してます。

「呼吸保護器」とは今でいうガーゼマスクにことです。マスクがなければハンカチや手拭いで代用しろと書かれてます。

最後にうがいです。塩水かぬるま湯でうがいをするよう促してます。うがい薬があればなお良いとも書かれてます。

手洗いの励行を除けば、現代社会にも通用する公衆衛生上の知識が明記されているように思います。

こうした対策にもかかわらず流行は防げませんでした。2384万人余りが感染したと記録されてます。

そして38万8千人が死亡しました。当時の日本の人口は5500万人ほどでした。

人口の43パーセントが感染し、およそ0.7パーセントの方が亡くなった計算になります。

ウィルスが免疫を持たない人体に侵入するといかに大きな被害をもたらすかをまざまざと示していると言えます。

もちろん現代は、当時と比較にならなかぐらい医学は進歩し入院者への高度の医療も提供できます。

大正時代の悲惨な状況をそっくりそのまま現代に当てはめることは意味がないことは重々承知です。

しかし、一方で抗インフルエンザ薬やワクチンが開発されない限り予防という意味では大きな変化はありません。

逆にはるかに便利になり東京を始め大都市部への人口の集中や移動が現代は進んでいます。

ひとりひとりが罹らないよう注意することが根本であることをスペイン風邪は教えているように思います。