新型コロナウィルス対応の政治学30

自民党内で新型コロナウィルスの終息後の国家の在り方についての議論が活発化し出しました。

岸田政調会長が政務調査会直属の機関を発足させました。ポスト安倍を意識しているのは確実です。

下村元文部大臣と稲田幹事長代行も新たな議連を発足させ国家ビジョンについて議論を始めました。

安倍総理大臣の総裁任期は来年9月です。このところ支持率が急落しています。

世論の変化を受けてポスト安倍時代の国家ビジョンをいち早く打ち立てようとしているかに見えます。

新型コロナウィルスの感染拡大の阻止に向けて動くと同時並行で大きな議論をすることは歓迎です。

当面の緊急対応は次なる時代をどう見据えるかによって変化が出て来るからです。

将来像をきちんと描くことで現在取るべき方向性が自ずと定めってきます。

大いに活発な議論を行って欲しいです。自民党だけでなく野党も参画すべきです。

コロナショックは、感染症対策に限らず日本の国づくりの根本からの再検討を迫っています。

米中対立、少子・高齢化、人口減少、食糧とエネルギーなど国の基本を揺さぶっているからです。

野党であっても日本の未来に責任を持とうというのであれば国家ビジョンを提示すべきです。

格好の参考書があります。日本を代表する歴史作家の司馬遼太郎さんの一連の著作です。

特にそのものずばりの『この国のかたち』は必読文献です。熟読して欲しいです。

バブル経済が崩壊した後の1990年代に司馬さんが月刊雑誌文芸春秋に連載したエッセイです。

ミレニアムの年2000年が最後の記述ですので司馬さんの21世紀に向けてのメッセージです。

司馬さんが日本の21世紀を展望した時に何を一番に思ったかというと明治維新です。

維新という一時期だけでなく明治という国家を創ろうと奮闘した20年余りの期間です。

進取の精神で欧米の科学技術を積極的に取り入れて近代国家を樹立させようとした時代です。

司馬さんはこの時代に高い評価を与えて、その精神がその後ねじ曲がったことを指摘してます。

日清・日露戦争を経て世界の強国として名乗りを上げられるまでになった頃から変調をきたします。

その変調の度合いは昭和の時代に入り著しく大きくなり手に負えないものになりました。

司馬さんはこの狂った一時期を「鬼胎」の時代と命名しています。鬼が支配したと捉えているのです。

鬼とは天皇の統帥権を盾に1930年代から敗戦までの政治を牛耳った軍部のことです。

司馬さんのこの時代の軍部に対する嫌悪感は激しいものがあると感じます。

行間から感情が噴出しています。司馬さんが訴えたい原点だと受け止めるべきです。

戦争を絶対にしてはならないという感情が司馬さんの「この国のかたち」の執筆の根っこにあります。

現代において新たな日本の国のかたちを議論する上で司馬さんの原点をないがしろにしてはなりません。

平和主義に立脚し明治の初めに日本人が持っていた進取の気性を甦らす構えが不可欠だと思います。