先月30日、台湾の民主的体制の礎を造った李登輝元総統が死去しました。

97年間の生涯を台湾のために捧げつくしたその生涯は立派の一言に尽きます。

私は台湾を訪問したこともなくもちろんお目にかかったこともありません。

李登輝氏の2冊の著書を通じてその見識の高さを知っているのみです。

『台湾の主張』と『新・台湾の主張』です。前者は1999年、後者は2015年の出版です。

2冊の著書に貫かれているのは高い志です。それと志を堅持する強じんな意思です。

決して精神論だけではありません。アメリカ留学で合理的な精神も自らのものとしています。

素晴らしい人格だと尊敬の念を抱かざるを得ません。アジアの巨人がこの世を去ったと思います。

共産党一党支配の独裁体制を引く中国と海峡を隔てて台湾は位置します。

いつ中国に飲み込まれるかと気の弱い指導者ならば不安感にさいなまされることでしょう。

李登輝氏は違いました。1996年、総統時代に「国と国との特殊な関係」と述べました。

台湾は中国の一地域ではなくひとつの国だと正々堂々と言葉にしたのです。

この気概たるや半端ではありません。断じて譲らないとの信念が貫かれています。

李登輝氏の目に映った21世紀の日本の姿は歯がゆくてたまらないようでした。

日本国としてもっと自信を持って堂々と自らの考えを主張しないのかということです。

李登輝氏の念頭にあったのは中国に対する日本の姿勢です。おっかなびっくりに思えたのです。

台湾は国だと断言する胆力の持ち主からすれば日本の指導者の弱腰は残念でなりませんでした。

私は弱腰という言葉からは最強国のアメリカの言いなりと連想してしまいます。

李登輝氏の主張を読んで初めて台湾は全く異なった視点から政界を見ていると知りました。

中国共産党の支配下にされてしまうかもしれない脅威と対峙しているのですから当然です。

李登輝氏はアメリカとの同盟関係を背景に中国とは現状維持を継続させる戦略を取りました。

ことさらに独立を叫ばないところに李登輝氏の政治家としての円熟さを感じます。

本心はもちろん独立でしょう。現状維持を続けているうちに必ず変化は来るとの判断だと思います。

李登輝氏の死の直前はアメリカと中国の対立の激化という事態が発生しました。

李登輝氏がこの事態に対しどう見ていたかは今となっては想像するしかありません。

李登輝氏の首尾一貫した政治姿勢からすると中国の強大化路線に対し臆するとは思えません。

アメリカとの同盟関係を基に中国に対し過度の拡張路線をとらせない体制をとったでしょう。

日本に対しても自由と民主主義を守るため連携強化を願ったに違いありません。

ただし現実的な合理主義者の李登輝氏のことですから軍事衝突は徹底して望まなかったはずです。

米中両国が冒険主義的に突き進むことは押さえようとしたのではないでしょうか。

李登輝氏にとってふがいないと思われた日本の政治家は今こそ李登輝精神を学んで欲しいです。