ナチスの御用学者の魔性の政治学

昨晩放送のNHKスペシャル「アウシュビッツ 死者たちの告発」、見ごたえありました。

このような力作はNHKスペシャルならではです。番組制作者に敬意を表します。

ポーランドのアウシュビッツ収容所はナチスによる第二次世界大戦でユダヤ人虐殺の拠点です。

600万人もユダヤ人がガス室で殺された人類史上まれに見る犯罪現場のひとつです。

同胞であるユダヤ人が絡んでいました。「ゾンダーコマンド」というユダヤ人特殊部隊です。

ナチスの命令により処刑した後の死体の処理や処刑場への案内などの任務に就かされたのです。

彼らは秘密のメモを書き記しびんの中に入れて地中に隠しました。そのメモが発見されたのです。

現代のデジタル技術を使って読めなかった文字が判読できるようになり全容の一部がわかったのです。

収容所には女性や子供もいます。子供たちからなぜ同じユダヤ人なのにと問い詰められます。

罪の意識にさいなまされるとともにいつの間にか殺りくに加担するのに慣れて行くのです。

殺りくが際立って細かくシステム化されていて流れ作業のように進んだというのです。

次第に感覚がマヒしてしまい罪の意識は薄らいでいきます。そうでなければ手を下せません。

しかし心の奥底には抵抗の意識がありました。罪状を秘密のメモにした行為がそれです。

実はアウシュビッツでの残虐行為はイギリスなどの連合国に伝っていました。

しかし、情報を握りつぶされました。大量のユダヤ人が救出を求めてくるのは恐れたのです。

国際政治の冷厳な思惑は、ユダヤ人への殺りくを止める方向に動きませんでした。

アウシュビッツなどのユダヤ人収容所の残虐行為を命じたのはナチスのヒトラーです。

ヒトラーが絶対権力を掌握しつつあった時にその正当性を認める論陣を張った学者たちがいます。

著名なひとりが政治学者のカール・シュミットです。非常時における絶対権力を賛美しました。

翻訳であってもシュミットの著書からは鋭利な刃物で切り裂くような鋭さがあります。

白か黒か、単純に決めつけながら論理を進めて行く文章から発せられる危険な光に目がくらみます。

シュミットが最近注目を集めているようです。16日の神奈川新聞の書評欄にありました。

中公新書の『カール・シュミット』です。評者はシュミットの誘惑は今なお健在だと言います。

アウシュビッツなどの惨劇を引き起こしたヒトラーへの協力と鋭利な刃物のようなシュミット政治学。

シュミットの中にはこの両者を両立させていた精神が宿っていたのです。

シュミットは戦争犯罪を問われることなく戦後1985年まで生き研究活動を続けました。

ナチスへの協力を真正面から見つめ外に向けて自己批判した形跡はありません。

政治者としてのシュミットの業績がいくら優れていようともこの一点から目をそらせません。

シュミットの政治学を「魔性の政治学」と呼ぶことがあります。言いえて妙です。

魔性に絡めとられナチスへの協力の事実を忘れさせてしまうからです。用心が不可欠です。