治水神から中華の祖へ、禹王イメージへの転換

22日の土曜日、午後2時よりNHK衛星放送で中国古代文明の番組があるのに気付きました。

中国最初の王朝、夏(か)王朝の伝説の創始者禹王を取りあげるということです。

2013年2月に放送された番組の再放送です。ビデオを録って日曜日じっくり見ました。

俳優の中井貴一さんが伝説の皇帝禹王の痕跡を求めて探求のたびをするという構成でした。

考古学の学術調査を土台にした番組でいたずらに想像を膨らませることに注意を払っていました。

今から4000年前ごろ古代中国は気候変動に襲われて中国大陸各地の文明は次々とほろびました。

長江流域にはすでに稲作文化も定着していたほど栄華を誇った文明も潰えました。

そんな中で現在の河南省の黄河流域に拠点を持った夏だけが徐々に勢力を増して行きました。

番組は夏の農業生産力に着目していました。五穀と言われる各種穀物の生産技術を持ってました。

夏の中心地ではないかとされる河南省二里頭遺跡近くのの地中の土壌調査から判明しました。

ひと種類より多種類の穀物を生産できた方が安定性が増すことは言うまでもありません。

また、治水が確立していなければ生産できません。優れた強大な指導者がいたことを伺わせます。

禹王が実在したことを示す物的な証拠は見つかっていません。可能性に留まっています。

番組の最初の方で中国の小学生が「華夏」という二文字を習字で練習している場面がありました。

「華夏」というのは中華という言葉と最初の王朝だとされる夏の二文字を合わせたものです。

偉大な中華文明の始まりは夏にあるということです。小学生の時から教え込まれるのです。

既に述べたようにこの番組は2013年2月放送です。7年が経過しています。

この間の中国の変化は著しいです。習近平政権は偉大なる中国の復権を前面に掲げました。

強大に発展した経済力を背景に世界的規模で影響力を増大する路線を採用しています。

習近平政権の一連の行動の背後にあるのは偉大なる中華文明という自負心でしょう。

アヘン戦争以来の180年の屈辱を果たす時が到来したという意識が流れているに相違ありません。

こうした時代の捉え方の変化は中国最初の王朝の創始者とされる禹王の位置づけをも変えます。

偉大なる中華文明の祖として時の権力者である習近平主席が利用しても不思議ではありません。

中国全土を最初に統一した秦の始皇帝は禹王の権威を利用したと番組で紹介されてました。

現代中国の最高権力者の地位に上り詰めた習近平主席が先例に学んでも何ら不思議ではありません。

禹王は歴史的でかつ学術的対象とされた時代は過ぎ政治的色彩強まっています。

禹王に対し中立的でいることが徐々に難しい時代に入ったとも言えます。

中国の指導者は、禹王を中国の偉大さを象徴する存在とみなします。

禹王の価値を認めることは中国の偉大さを無条件に承認したと見る見方につながるでしょう。

日本人として微妙なところです。禹王に対する向き合い方が難しくなってきました。