新型コロナウィルス対応の政治学61~総合的ふかん的~

意味を知って使いこなせると文章に深みが出る4字熟語があります。

牽強付会、けんきょうふかいという熟語は、そのひとつです。自分勝手に解釈することです。

この4字熟語、菅総理の日本学術会議人事への対応に当てはめるとピタリとはまります。

菅総理は”総合的ふかん的”判断に基づいて人事を行ったと説明しています。

”総合的ふかん的”とは虫の目で見るのではなく鳥のように大空から広く眺めることだと思います。

日本が置かれている内外情勢を鳥のように”総合的ふかん的”に眺めてみましょう。

4つ大きな危機と直面しています。ひとつはいまでもなく新型コロナウィルスとの戦いです。

ふたつは頻発する巨大自然災害です。3つめは覇権主義的傾向を強める中国の脅威です。

最後は、人口減少、少子高齢化による社会構造の変化です。いずれも難問です。

このうち対中国の危機への対応について”総合的ふかん的”な視点から考えてみましょう。

中国は、尖閣諸島の奪還を目指して日本への圧力を強めているのは周知のことです。

日本のGDPの3倍になんなんとする巨大な経済力を背景にした力の外交を展開しています。

日本と中国は経済的に深いつながりがあります。戦争にしてはいけません。

かといって中国の論理に振り回されて中国に屈服することは国民感情が許しません。

日本のソフトパワーがどうしても必要です。先進諸国の価値観の共有が有効です。

安倍前総理は盛んに価値観外交という大上段に振りかざした言い回しをしてきました。

政治的自由と民主主義を尊重するという基本を大切にする国同士の強固な連帯を意味します。

中国は香港の民主化運動を弾圧し中国国内での少数民族への圧力を強めています。

今こそ政治的自由と民主主義を高らかに掲げて中国に対応すべき時期です。

日本は中国とは異なり政治的自由と民主主義を重んじる国だということを示すことが必要です。

日本学術会議の人事をめぐる菅総理の対応はこの流れに逆行するものです。

まるで対峙しなければならないはずの中国のやり口を真似ているかのような対応です。

中国のように政府を批判したからと言って牢獄に入れることはありませんが人事で切りました。

先行して人事で切り付けるのはかの国をお手本とするような眉をひそめる行為です。

日本が学問の自由を重んじる国だと主張しても二枚舌と言われてしまいます。

菅総理は、”総合的ふかん的”という用語を牽強付会、自分勝手に捻じ曲げました。

本来の解釈に立てば、学問の自由に関するような課題には懐の深い対応を見せることが必要です。

そうした対応をとることが対中国に対し日本の価値観というか国の道義を示すことです。

日本は中国とは異なる価値観を持ち王道を歩むという事実を内外に示す絶好の機会を逸しました。

尖閣諸島問題で中国と対峙せざるを得ない状況下において重大な判断ミスを冒したと思います。

中国に対し経済力だけでなく道義の面でも有利に立てないとすると日本の先行きは危ういです。